読書日記 『史上最恐の人喰い虎』

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私のポリシーなので出版社リンクも貼る

www.seidosha.co.jp

 

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読了した。すっごい熱かった……

 

この本は、推定436人を殺害したと言われる人喰い虎、「チャンパーワットの人喰い虎」と、それを狩った伝説のハンター、「ジム・コーベット」の対決物語を軸に、人喰い虎が生まれる背景を掘り下げ、当時の植民地を巡る西洋の政治体制への批判と、現代にまで続く環境破壊に対する問題提起でできている。

自分で自分の書いた文章を太字にする日がくるとは思っていなかったけど、大事なことなので太字にした。

 

この本によると、虎は最強の生き物である。もし、人間が森の中で虎に狙われ、戦闘が発生したとしても、人間サイドは戦闘の開始に気づくことさえない可能性が高い。それは一瞬で行われ、抵抗とか自衛とかのタイミングが発生することはない。虎との戦いでは、常に先手をとる必要があり、こちらが数で押しているかまたは一撃で終わらせる必要がある。人間は虎には基本的に勝てない。

しかし、幸運なことに、虎は人間を捕食するようにはできていないみたい。どういうことなのかわからないけど、基本的に、虎は人間を避けるんですって。森の民ですら虎に会わずに一生を終えたりすることもあるらしい。虎の方が能力的には圧倒的に優っているので、こちらに気づかれずに去っていくんだろう。

ちなみに、これ、今まで読んだ本や記事によると、虎だけではなさそう。熊も狼も、人間より強い動物はなぜか人間を襲わなかったりする。二足歩行がポイントなのかな? 襲われるとき、だいたい虎の被害者は、森の中でかがんで枝を拾っていたり、畑仕事をしていたりして、シルエットが四足歩行の獣になっているとのことだ。

しかし人間を襲わないのが正常な虎だとして、頭のネジがどこかで取れると、人間が簡単に狩れてしかも味もすることに気づいてしまうらしい。そうなったらもう人間襲い得なので、人喰い怪物に変貌してしまう。

ずっと人間と虎は隣り合わせで暮らしてきたが、襲われて年に一桁という感じだったらしいのが、一頭で436人も殺すような魔物が生み出されるようになってしまう。この原因に環境破壊、つまり人間と虎の領域のバランス崩壊があるようだ。虎を経験的に宗教的神格化してきた土着民から土地や虎狩りの文化を奪った英国人の問題もある。

 

そういう小難しい話もあるんだけど、やっぱり……「伝説の狩人」ジム・コーベットがかっこいいよね!!!!

 

この本を買う人は、ハンターのかっこいい話または虎の恐ろしい話が読みたかったりするんじゃないかな!?

そういう人には前半部分の歴史や環境の話はちょっぴり退屈かもしれない。でも中盤〜後半からの虎とコーベットの戦いの部分は……期待した通りの熱さだよ!!

これは小説ではないので、状況描写を中心に淡々と語られる。コーベットの手記や資料である当時の新聞をネタ元に状況が描かれる、が、それでは不足してしまう合間合間が、著者のロマン溢れる空想で補われている。このおかげで、小説とはまた違った、叙事詩のような壮大さがあって、胸が熱くなる。正直ちょっと泣きそうになった。

うん。大事なことだからもう1回書いておこう。「第11章 獣との対峙」は叙事詩だ。大事だから太字にしておこう。

 

著者の性格はこの本にかなり個性を与えている。ある種のロマンを大事にしている人なのが伝わってくる。第10章から、虎の恐怖を描いた部分を引用する。

先ず第一に、純然たる衝突力。想像を絶する衝突であり、脊椎が外れ、皮膚が避けて肋が出る。それから、爪−−それが10本、肉切り包丁くらいの刃渡りで、背中から肉を抉り取り、肺を突き刺す。最後に歯、項を砕く四重奏だ。それに耐えてまだ意識があったとしても、ただ為す術もなく虎の顎で挟まれ、子供のように無力に連れ去られるのみ。文明の音は消え入り、野生の森のコーラスが始まる。その熱い息の鼻をつんざく異臭が、これから来る真の恐怖の予告だ……。(p208)

訳者の松田和也氏の主な訳書を見てください。『吸血鬼の事典』、『悪魔学大全』、『シリアルキラーズ』『サイコパスのすすめ』などなど……こういった描写はお得意中のお得意なんじゃないですか? すみません、詳しくないんですけど! 言いがかりだったらすみません!

タイトルもこんな感じだし、著者・訳者ともに「怪物」としての人喰い虎を強く意識してる感じがするね。翻訳の文体について星1にしてあったAmazonレビューを目撃したのだが、かなり癖はある。そのおかげで個性的な本になっていると思います。

個人的には、読みやすいだけの文章を収めた本であれば、AIにおまかせしちゃえばって思うタイプ。好みの差はあると思うけど、これは個性があって読み応えもあっていい本だと思うにゃ。文芸。

 

 ちょっと話が戻るが、ジム・コーベットという伝説のハンターその人の主人公感についても伝えたい。設定盛りすぎでは? と思うくらい主人公。

まず、在印3世の、英国人、ではなくアイルランド人。英国貴族と親しい一方で、常にどちらかといえば使用人の立場。幼い頃からインド人と親しくして狩りも教わっており、10歳で襲いかかってきた豹を仕留めている。英語と現地クマーウーン語の両方を話す。

鉄道員として真面目に働いていたが、ジャングルを知り抜いた狩りの腕を恃まれ、人喰い虎の討伐を依頼される。現地の人の信頼も得て劇的な狩りを成功させたのには、彼の生い立ち、インド人でも英国人でもなく、どちらにも通じている、という特徴が大きく影響したんじゃないかな〜。

現地の祝勝パーティは仕事があるので出ずに帰り、手記には自分が受けた表彰のことは書かない。自慢をしない。その後も依頼を受けて人喰い狩りを続けることに。本も書いて印税もたくさんもらったが、かなりの額を福祉や自然保護に寄付している。生涯独身を貫き、近代化の進むインドは去り、アフリカへ。家を建てた後も庭にテントを張って寝たとか?

なんか書ききれないから読んでください。

晩年インド時代の旧友に向けて書いた手紙が本当に泣ける。

 

「文明」は完全に管理された自然を求める傾向にある。と思う。0か100か。ニホンオオカミはこうして0になった。0か100かじゃなければ、管理できない。

でも、それはうまくいかない。自然界の一番すごいところはバランスが保たれているということ。それを人間が管理するのは難しい。虎を絶滅させれば虎による殺人はそりゃ0になる。だが、代わりに小さな動物がはびこり、農作物に影響が出たり、小さな被害が増えたりする。狼がいないから猪が畑を荒らすのかどうかはあんまり詳しくないので名言できませんが……。

この本では、虎がいてくれて助かる〜という現地民の声も記されている。0にしたらしたで影響が出るし、0にしようとした過程で生まれたのが人喰い虎でもある。

そのへんのバランスについても思いをはせちゃうね。もう少し時代が進んだらAIさんがなんとかしてくれるのかもしれないが。そんなこと言ったら人間も計画的に間引かれちゃうな。

この辺はもう少しいろんな本を読んで考えられたらいいなあ。

 

以上読み応えがあって楽しい本でした!