図書館で地獄をピック 『湖』

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この前図書館でランダムピックしたうちの1冊。

 

端的に言って、内容は地獄。全てが衰退に向かっており、暴力が繰り返し描写される。主人公ナミは最初小さな男の子だけど、ある種の冒険の果てに、体は屈強だが薄汚れて眉間に皺の刻まれた、絶望に満ちた青年となる。ラストシーンにそんな容姿の描写はないけれどそれは必要がないからであって小説は慣性をうまく利用すると書いてないことも描写できる。すごいよな〜。

 

どこの国のどこの時代のことなのかはよくわからない。

私の教養不足かと思ったけど、訳者あとがきをみる限り、これは誰にもわからないみたいだ。駐留するロシア軍、大きな湖、社会主義の影、アラーを讃える人、髪を隠す女性、バクラヴァなどの食べ物、から広いユーラシア大陸の真ん中あたりのどこかなのかな、という雰囲気はなんとなくある。

 

とにかく小説がうまい。うますぎてこれが小説なんだなあと思わされる。

文章がすごい。描写はとてもシンプルだ。そして過去形ではなく現在形が主体になっている。一般的に現在形は断定的で、過去と未来のちょうど真ん中にあるわけではなく、未来の方により寄っている。だから予言者または預言者が書いた素朴で達観していて疑いのない文章群、聖書のような、神話のような、何かの教典のような趣。もくしろく。

そう、途中で暴動が起こるんですけどそのあとの街の描写とかはかなり黙示録的だ。黙示録って何か知らないけど。ゾンビーとかが大量発生した時に使うんだよね。でも別に戦争でもないし、みんな死ぬわけじゃないので、普通に人は生きている。人が生きていて街があっても終末を感じることはできる。

 

途中、女の子がひどい目に会うところがきつくて、しばらく読書の間があきました。

日本では作品のシビアさを証明する手段として作中で陵辱が行われることが多々あるなあと思っている。そしてそういうのは「ああ、はい、なるほどね」という感じで流すことを推奨されているように私のデリケートな肌感覚は言っているよ。そういう作品を避けたいので出版物のレーティングもしてほしい派だったりする(エゴエゴ)。

でも今回は流せなかった。これはこの作品どうこうというよりも、私がただ変化しているだけなのかもしれない。

 

話が激重なのに比して神がかり的小説パワーのためサクサク読めてしまう。可読性の話だけをするならばね。サクサク読める地獄ってなんだよ。でもそのせいで余計やるせないんだよね。ほんとすごいよ。小説の力を感じた。救いも何もないが幼馴染たちの末路だけがほんの少し希望ではあると思えなくもない。

 

読書体験としてはすごくすごいものだったので暴力とか地獄とかが大丈夫で優れた小説を読みたい人にはすごくおすすめします。